インプラント治療の 現実

歯や口腔は、摂食、咀嚼、嚥下や発音、表情づくりなど、人が生きていく上で大きな役割を果たしている器官であり、口腔の健康は全身の健康にも影響を及ぼすと言われています。インプラント治療とは、診療費用を全額自己負担する自由診療であるが、残存歯への負担や侵襲がより少なく、審美的な回復も可能である等の利点から、歯が欠損した場合に生活の質(Quality of life:QOL)を向上させることができる有効な治療法です。

平成16年国民健康・栄養調査結果によると、歯が抜けたところの治療法としてインプラントを装着している人の割合は10.2%にのぼっており、平成20年医療施設調査結果によると、全国の歯科医療機関の21.5%でインプラント治療が行われています。一方、全国消費生活情報ネットワーク・システムには、歯科インプラント治療により被害を受けたという相談が増加傾向にあります。相談内容の多くが、治療上生じた問題によって日常生活にまで影響が及んでいるという相談が目立っています。長きに渡ってインプラント治療に携わってきた者として、大変心苦しい状態になっております。

今ある問題をきちんと伝える責任が私達にはあります。そして一人でもこういったトラブルを回避、再発防止、修復できるように今後も誠実に歯科業界、インプラント治療と携わっていきたいと思います。そこで、インプラント治療によりトラブルを受けたという相談情報を分析し、患者さんに対し情報提供をしていきたいと思います。

相談の 概要

1. 被害を受けたという相談の件数

全国消費生活情報ネットワーク・システムには、インプラント治療に関連する相談が2006年度以降の約5年間で2,086件寄せられており、歯科治療に関する相談(13,060件)の16.0%を占めていた。インプラント治療に関連する相談を相談内容別に見ると、「安全・衛生」又は「品質・機能・役務品質」に関する相談が51.0%(1,063件)と約半数を占めていた。また、被害を受けたという相談は343件(インプラント治療に関連する相談の16.4%)であり、件数は増加傾向にあった。

2. 対象者の年代・性別

対象者の年代は、60歳代(103件、30.0%)と50歳代(96件、28.0%)を合わせると被害を受けたという相談の6割近くを占めていた。また、相談のあった343件のうち性別について見ると、女性が283件で、男性(59件)の約5倍であった(不明1件)。

3. 身体症状が継続した期間

身体症状が継続した期間について記載があった相談204件のうち、1カ月を超えて身体症状が継続したという相談が154件(75.5%)であり、そのうち64件(41.6%)は1年を超えて身体症状が継続したという相談であった。

また、被害を受けたという相談の82.5%(283件)は、相談受付時に痛み等の身体症状若しくは身体症状に対する治療が継続しているという相談であった。なお、被害を受けたという相談の中には、補綴処置が終了して長期間が経過してから身体症状が発生したという相談もあった。

また、インプラント治療によって被害を受けた際に、当該歯科医療機関と異なる医療機関を受診したという旨の相談(142件、41.4%)と、当該歯科医療機関と異なる医療機関の受診を希望するという旨の相談(23件、6.7%)を合わせると、被害を受けたという相談全体の半数近く(165件、48.1%)にのぼっていた。

4. 危害を受けたという部位及び内容

被害を受けたという部位のほとんどが「口・口腔・歯」であった(301件、87.8%)。その内容を分析した結果、歯や口腔の痛み、腫れ、インプラント体の破損、化膿・炎 症、噛み合わせが悪い・合わない、麻痺・痺れといった内容が多かった。

問題

問題点 1

インプラント治療により被害を受けたという相談のうち 154 件(身体症状が継続した期間について記載があった相談の75.5%)は身体症状が1カ月を超えて継続したという相談であり、そのうち41.6%(64件)は1年を超えて身体症状が継続したというものである。歯科インプラント治療でいったん被害を受けた場合、長期的に症状が続き、治療が必要となる。

問題点 2

全国の歯科医療機関の約 2 割でインプラント治療が行われているが、治療を行う歯科医療機関や歯科医師に関する基準や、治療のプロセス全体を網羅するようなガイドライン等はないため、歯科医療機関や歯科医師によって治療の知識・技術に差がある。

問題点 3

厚生労働省がまとめた検討会報告書では、インプラント治療を行う歯科医師は治療前の説明について一層の責任がある、とされているにもかかわらず、治療内容や治療方法、治療のリスク等に関する歯科医師の説明が不十分な場合がある。

問題点 4

インプラント治療で被害を受けた際に当該歯科医療機関と異なる医療機関を受診した、あるいは異なる医療機関の受診を希望するという相談を合わせると、インプラント治療により被害を受けたという相談の半数近くにのぼる。被害を受けた場合の歯科医療機関の対応が不十分・不適切と感じている患者さんがいる。

患者さんへの アドバイス

アドバイス 1

インプラント治療を受ける場合は、患者さん自らも十分な情報収集を行うとともに、治療前に歯科医師に対してリスク等に関する説明を自ら十分に求める方が良い。インプラント治療は保険診療とは違い、歯科医療機関が費用や治療方法を自由に設定できる自由診療であり、治療費用も高額である。

治療を受けるかどうかや歯科医療機関及び歯科医師の選択に際しては、治療のリスクや治療中の身体的な負担等について自らも十分な情報収集を行うとともに、歯科医師に十分な説明を自ら求め、慎重に検討すべきである。

アドバイス 2

インプラントを入れた後も、歯科医師の指導の下で適切な口腔清掃を行うとともに継続的に定期検診を受けること。歯科インプラント治療のプロセスのうち補綴治療後のメンテナンスの過程で適切なケアを怠るとさまざまな合併症を誘発するとされており、治療後のメンテナンスは非常に重要である。

インプラント治療によって被害を受けたという相談の中にも、補綴処置が終了して長期間が経過してから身体症状が発生したというものが複数見られた。インプラントを健康な状態で維持するためにも、歯科医師の指導の下で適切な口腔清掃を行うとともに、定期的に検診を受けるべきである。

アドバイス 3

インプラント治療により被害を受けた場合や、治療に対して納得ができない場合は、セカンドオピニオンを得る方がよい。インプラント治療により被害を受けた場合は、セカンドオピニオンを得たり、大学病院等を受診することも一つの方法である。

アドバイス 4

インプラント治療をこれから受ける、もしくは治療を受けた場合、その歯科医療機関が適切な設備を有しているか、豊富な経験を有しているかを見極める。治療を受けるかどうかや歯科医療機関及び歯科医師の選択に際しては、設備、体制、知識、技術、経験で差が出てくるので十分に理解し納得のいく施設を選ぶことにより、リスクを軽減することができる。

独立行政法人国民生活センターによる
「歯科インプラント治療に係る問題 -身体的トラブルを中心に- 」より引用及び改変